日本史上には数多くの素晴らしい絵師(画家)たちがいますが、室町時代の絵師をよく知っている人はあまりいないのではないでしょうか。太平の世で数多の芸術的才能が花開いた江戸時代に比べると、見劣りしがちな室町時代ですが、どんな世にも誇れる芸術はあるものです。
この記事では、室町時代に優れた作品で知られた絵師たちを紹介します。
禅僧でもあった天章周文
室町時代中期に京都で活動した周文は、足利将軍家のお抱え絵師でした。また、現代でも高名な寺である相国寺に禅僧としても仕えていました。
山水画(中国の絵画様式で、山や川、滝、森、岩など自然の風景を題材としたもの)に多大な影響を受けた周文の作品には、力強い描線でオリジナリティ溢れる創造的な自然風景を描き、遠景と前景をよく描き分けるという特徴が見られます。
ただし、周文は自身の名を作品に残さなかったため、周文作とされる作品はすべて推定によるものです。
その中で周文作である可能性が最も高く、また国宝となっている『竹斎読書図』は、縦135㎝という長さの画面に、禅僧たちの詩と周文の山水画が描かれた優れた共作です。
トゲトゲしているとも言える独特の線で木々や岩の輪郭を表し、絶妙な墨のグラデーションで霧深い山の情景を見事に表しています。
こちらは東京国立博物館所蔵の作品なので、いつか東京・上野で公にお披露目される日が来るかもしれません。
日本漢画の祖、如拙
如拙も、南北朝時代~室町時代中期にかけて活動した絵師で、また相国寺にいたことがわかっています。日本で漢画(中国様式の絵画)の様式を築いた祖とされています。
如拙の最も有名な代表作である国宝の『瓢鮎図』は、室町幕府将軍足利義持の注文により描かれたもので、自然の中で川を泳ぐナマズを男がひょうたんで捕えようとする光景を描いています。
如拙の作品はモノクロームの水墨画が多いですが、この作品はところどころに淡く絵の具が施されており、より生き生きとした物語描写がなされています。
後世への影響
周文に絵を学び、如拙を祖として崇めた者に、禅僧絵師の雪舟がいます。水墨画を得意としながら、花鳥画、人物画でも知られる類い稀な才を持った絵師で、上記二人の中国様の山水画を受け継ぎ、日本独自の山水画様式を生み出した人物と言われます。
周文と如拙が導入した中国様式は、後世の絵師たちの手を経て、日本らしさを持つ新しい作風へとつながっていったのです。